地球上でモノを作る限りは、地磁気や引力といった周りの環境の影響を避けて通る事は出来ない。厳密に言うと均質な物は作れないという事になる。上下や南北の方向によって分子レベルで粗密が生じるからだ。
南北に偏心して育った木の年輪が最たるもので、太陽光や地磁気の影響を受けている事を如実に物語っている。
しかしながら、工業製品としては精度が高くなければ組み立て時に問題が出て来るので、プラスマイナス何ミリとかの公差が指定され、その枠内に収まっていれば良品として扱われる。世間一般では出来る限り同じであることが求められるのである。
とは言え、人間とは不思議なもので、ある時は同じに扱って欲しいと考えるし、ある時は自分という個の存在の違いを認めて欲しいと考える。私はどちらかと言えば後者寄りだ。
ただの一つも同じものは存在しないこの世の中で、お互いがお互いの個性を尊重し合う事を理想としている。というとリベラルのように聞こえるが生粋の保守である。
そんな特徴を持って生まれているので、人に対しても物に対しても普通では気づかないような微妙な差も感じ取ってしまう。とにかく好奇心が人一倍旺盛なのだ。だからちょっとした事にも感動したり興奮を覚える。
喜怒哀楽の振幅が大きいと自分でも思う。だからこそ音響機器のセッティング及び設計、そして車の走りのチューニング等に興味が尽きず楽しく探求し続けている。そうした環境下で生まれた車の足回りの研究の一端を改めて紹介しよう。
■タイヤの和音式四肢加速度組み立て
通常はタイヤの軽点を示す黄色いマーカーと、ホイールの重いポイントとされているバルブ部分とを合わせて組むのが一般的だ。
私の場合はタイヤホイール共に振動の抜けて行く方向をチェックしたうえで、音楽のオクターブ和音、即ち、分数によるハーモニー周期といった方式を四輪各々に違ったパターンとして採り入れている。
今回のプジョー406を例にすると、ド 1/1、ラ 3/5、シ 8/15、ソ 2/3という和音に重ねて組み上げて行く、オーディオ屋ならではの技法を用いている。方向性管理による足回りは既に20年以上のキャリアを積んでいる。
タイヤの振動の抜けていく方向をド 1/1(0度の位置)として、レ 8/9(320度)、ミ 4/5(288度)、ファ 3/4(270度)、ソ 2/3(240度)、ラ 3/5(216度)、シ 8/15(192度)の角度にホイールの抜けて行く方向を合わせて組んで行く。
そうすると質量のあるところのグリップ力が高くなり、四輪各々が適宜適切に車体の態勢を崩さない働きをする事が判って来た。特に下りカーブでの安定感は感動ものである。それは四つ足動物のような足さばきをしてくれるのだ。
四本のタイヤが同じ組方だと、まっすぐ進む時には問題が生じないが、スラローム走行に於いては車体が大きくロールするのだ。
今回のPeugeot 406 Coupe 2.2 MTに於いては、下記のX型で組み上げた。
F.L ド 1/1
R.R ラ 3/5
R.L シ 8/15
F.R ソ 2/3
■ホイールバランサーも独自のチューニング
ホイールバランサーにも拘っていて、内部のモーターに掛かるベルトの方向性も回転方向に合わせて組み直している。
更にシャフトのフライホイール部の方向性に於いても、軽い部分を常に0度の位置合わせて、常に測定条件が一定になる形でタイヤを装着して測定する方法を採用している。
これを守らないと測定条件がその都度変わり、出て来る答えが常に違って来るのだ。だから巷に於ける機器の数値設定は甘めに設定されていて、合っているかのようにゼロを示すようになっている。
■重りに関しても独自の取り付け
しかし、私のやっている方法は1/100gまで緻密に測っている。それを実現するには市販の四角いブロック型の重りは使わないで、1ミリと0.7ミリの鉛のシートを振動が抜け易い形にハサミでカットして貼り付ける方法を採用している。
ホイールもタイヤも局所的に重たい軽いがある訳ではない。顔と顎と首の境目が判らないのと同じように次第になだらかに変化しているのだ。
だから面積が小さく肉厚のある重りを使うと空気抵抗も大きくなるし、芯から外れて振動ブレが生じ易いのは明らかだ。
私がイメージするホイールバランスは、傷跡が判らないような皮膚移植手術にある。その為に鉛シートを貼った後、ホイールに馴染むようハンマーで叩き一体化させるのだ。
■ボルトの重要性
ボルトはモノとモノを確実に締め付ける為と受け止められているが、実はエネルギーを伝達する大切な役割を持っている事を忘れてはならない。
その為にはゴミが詰まっていては確実な仕事が出来ない。1本、1本丁寧に金属ブラシでクリーニングする。車体のハブ側のメスネジ部分もパーツクリーナーを吹き付け細いブラシをドリルの装着してゴミを掻き出してから組む事にしている。
次の拘りは、16本のボルトをどのホイールと組むのが良いか、マッチングをイメージして配置する。更にホイールのどの穴とハブのどの穴に装着するかを考えて組み上げて行く。
このような拘りを持って組み上げて行った足回りを持つ車の、処置前と措置後の走りの違いを車好きの仲間達と効果の度合いを語り合うのだ。
今回は若きテストドライバーのS氏を招待して、その効果のほどを体験して貰った。その時の走りの様子を動画にも収めているので、別のページで紹介したい。
コメントを残す